雨。久しぶりだね。
ゆるゆると降る雨を眺めるのは、嫌いじゃない。(雨の中、外でお仕事しなければならない人には悪いと思ってるけど)
することのない雨の休日には、「こぬか雨の中を歩く」ことだけが目的で、散歩に出ることもある。(ひま人というよりは、変り者。自覚してますが)
靴があんまり汚れないように、ゆっくりと足もとを選んで歩を進める。
知ってる?
雨の日は、いい匂いなんだよ。
匂いの粒子は、水を含んで重くなる。
だから、地表近くにたまって、あまり動かない。
強い風が吹いているのでなければ、晴れた日よりずっと濃密な空気になる。
眠くなるような、甘い花の匂い。
薬みたいな、ちょっと苦い木の肌の匂い。
土の匂い。草の匂い。砂利の匂い。
空気を揺らさないようにゆっくりと歩いているから、匂いの境目がはっきりとわかる時もある。
今の一歩で、この匂いの中に入った、とわかる時がある。
それは、とてもおもしろい。
大きく息を吸って、吐いて、いい匂いを体に染み込ませる。
少しだけきょろきょろして、匂いの源を探す。
見つからなくてもいい。
この塀の向こうに、花が咲いているのかな、と想像する。
でも、一番好きなのは、雨の匂い。
少しだけ甘い、ちょっと物足りない、ミルクの匂いに似ている。
大きく息を吸って、吐いて、雨の匂いを体に染み込ませる。
遠い昔の、記憶のように。(どれくらい昔かと言うと、私がまだ人間でなかったくらい昔)
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